いきなり!ステーキ社長を公開批判したすかいらーく創業者。その秘めた焦りとは・前編~カンブリア宮殿

真面目な話, 経済

訂正とお詫び

横川氏がすかいらーくに戻ったとありますが、戻っていませんでした。後半部分を思い込みで書いたことをお詫びし、訂正します。自分の興した会社に戻れなかったとなれば、カンブリア宮殿で一瀬に食いついた姿勢そのものが、レジェンドとしてはあまりにも悲しいですね・・・・・・。

大人の横川氏、子供の一瀬氏という構図

3月12日放送の「カンブリア宮殿」(テレビ東京系)では、外食会のレジェンドとされる横川竟氏(すかいらーく創業者)が、一瀬邦夫氏(いきなり!ステーキ創業者)にダメ出しする構図となり、視聴者から「さすが、すかいらーく!」だの「いきステのダメな理由が分かった!」だの、さながら聖人を称えるかのような反応一色となった。
(以下、敬称略)

確かに横川氏は外食界のレジェンドだろう。参入障壁の低さから9割が数年で潰れると言われる外食産業の中、日本最大の外食コングロマリットを作り上げた立志伝中の人物である。

しかし考えてみてほしい。それほど厳しい世界で頂点を極め、それを維持する人物が「ただの聖人」であろうはずがない。

見ていて気になったのは、「(いきなり!ステーキは)うまくやればいい会社になるし、今の形だと、どっかでガシャッと修正しないといけない」と言った部分。

ネット上では敵に塩を送る名経営者として取り上げられているが、私はこれを「修正してくれれば脅威ではなくなる(今の形を続けないでほしい)」という本音を隠した表現と見た。

以下、前後編に分けて、すかいらーくの真実を紐解いてみたい。

すかいらーくは倒産の危機にあった

物腰穏やかな名経営者の横川と、大赤字を垂れ流す無能経営者の一瀬。そんな構図で理解する前に、すかいらーくには倒産の危機があったこと、一度はオーナーの手から離れてしまったことをご存知だろうか。

それは2006年の出来事。東証一部に上場していたすかいらーくは、この年、突然上場廃止となる。理由は業績悪化。創業家による株式買収(MBO=マネジメントバイアウト)という形で行われた。いわく、経営不振から脱するため機動的な戦略を取れるよう、株主を意識しなくていい未上場の道を選ぶのだと。

絵図を書いたのは野村證券グループで1,000億円を用意。イギリス系ファンドが600億円、みずほ銀行を中心とした19もの金融機関が総額2,200億円と、巨額な資金を用意し、日本史上最大のMBOと話題になった。

創業家も多少出資したため外形的にはMBOと言われるものの、しかし実態は金融機関による創業者追放であった

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その後、野村は追加出資を行うものの、東日本大震災による業績悪化により「倒産やむなし」と考えたのか、全株式を投資ファンドへ売却してしまったのだ。

詳細は省くが、投資ファンドは株式を大量に売り出し(株を刷って市場から資金を調達)、2014年に再上場させる。大量の株式売り出しと金融機関からの短期債務により、すかいらーくのバランスシートは借金まみれの歪な形となった。

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会計には詳しくないので詳細は専門家にお任せしたいが、素人目で見ても現預金が少なく、すぐに換金できない固定資産が多いのは危機に弱そうと映る。大量に発行した株券により自己資本は大きいものの、異様なほど大きい無形固定資産が何なのか気にかかる。有利子負債の大きさも今後の負担となるだろう。

優良経営で名を馳せるサイゼリヤも見てみよう。

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現預金が超豊富で有利子負債が小さい。自己資本比率も高く、こりゃ潰れませんわ。

それではいきなり!ステーキ(ペッパーフードサービス)はどうだろう。

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まず、貸借対照表の急拡大が見て取れる。店舗拡大による有利子負債の拡大と自己資本の減少が凄まじいのも印象的。

確かに分かりやすい「高転び」ではあるが、すかいらーくだって褒められたものじゃない。サイゼリヤの創業者から財務を批判されるなら分かるが、ハイエナファンドをボロ儲けさせた横川が、一瀬を否定するのはおかしな話だろう

横川「思想がダメなら生き残れない」

いやいや、あなた一度追い出されてますやん。


すかいらーくの失敗

いきなり!ステーキは店舗を減らしたとはいえ、今も400店もの店舗数である。そして運営会社であるペッパーフードサービスの名前の由来でもあるペッパーランチは、国内165店舗、海外332店舗を誇る。いきなり!ステーキがどれほど成功しようと、一瀬はペッパーランチを捨てていない

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一方の横川はどうだろう。日本全国に「すかいらーく」は何店舗あるかご存知だろうか? 答えはゼロ。一店舗も存在しないのである

横川が経営から追い出されたわずか1年後、最後まで残っていた埼玉県川口新郷店は閉店され、1970年の第一号店から受け継がれた店名は、40周年を直前に控え消滅した。

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もちろん、創業時の店名を捨ててはならないという話ではない。しかし、捨てた理由を見ると、また異なる感想になる

すかいらーくがガストになった理由

すかいらーくのメイン業態は、ご存知の通り「ガスト」だ。筆者もチキングリルのガーリックソースが大好きで、昔から頻繁に通っている。そしてこれまたご存知の通り、ガストはデフレの寵児として格安業態でスタートし、今もその路線を貫いている。

一方、高級業態であるスカイラークガーデンズはあえなく失敗した

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また、さらなる高級路線のスカイラークグリルも無残に散った

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これにより横川は高級路線を諦め、店舗網の過半数をガストに転換する。

経営不振をV字回復させる鬼の一手であったはずが、ほぼ同じ商品を相対的に高価格で提供している「すかいらーく」の売上減に歯止めがかからなくなってしまった。つまり、横川は自らの手で、単価の高い「すかいらーく」を滅ぼす形を作り、2009年に経営の座から引きずり下ろされたのである。

高級業態の大失敗と安売り化。すなわち横川は、単価を上げることのできない経営者、安売りでしか集客を維持できない経営者ともいえるのだ

実際、和食店舗の藍屋を次々と安売り業態の夢庵へシフトさせたのは記憶に新しいだろう。サイゼリヤを真似てイタリア料理店グラッチェガーデンズを始めたものの、やはり単価を下げざるを得なくなり、2016年には大幅なメニュー見直しを行った。

ガストの人気メニュー「ミックスグリル」は799円だが、

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グラッチェガーデンズでは、なんと599円で提供している。

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驚くことに、ガストよりさらに安い価格帯の店を用意しているのだ。 横川の蒔いた低価格路線は今も続いている。

安売りでしか業績を伸ばせない苦しさ

普通ならば店舗網を縮小したいのだが、財務上の制約により店を閉めづらい(特損の発生)。そこで、業態を転換することで銀行から融資を引き出し経営を維持する、変則的な自転車操業を繰り返している。

身動きの取れない財務状況の中で編み出したすかいらーくの必勝パターンは、低価格業態へシフトすることで店舗網を維持し、規模のメリットを維持すること。規模のメリットとはすなわち仕入れコストの引き下げである。他社で成功している業態を見つけると、すぐさまブランドを立ち上げ、自社内の不採算店舗を業態転換させる。既にお手本はできているのだから真似をするだけだ。

ここで具体例を見てみよう。最近店舗数を増やしているビュッフェスタイルの「しゃぶ葉」は、先行していた「しゃぶしゃぶ温野菜」の模倣である。

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↑しゃぶしゃぶ温野菜・アンデス高原豚&牛肉&国産野菜食べ放題・2,780円
↓しゃぶ葉・イベリコ豚&牛肉&野菜の食べ放題・2,499円

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パクリ元よりおよそ300円安くしている。

それだけなら大した差は無いように感じるが、パクリ元のしゃぶしゃぶ温野菜では「国産野菜」を大々的に歌っているにもかかわらず、しゃぶ葉ではそれがない。

しゃぶ葉の公式WEBで産地を調べても記載が無いのだ。国産はブランドとなるのに、これを歌わないということは、まあ、中国をはじめとする海外産なのだろう。

横川にとって、いきなり!ステーキの一瀬は「格上」

次にステーキで比較してみよう。先月のnoteに書いたステーキけんと比べる

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↑ステーキけん・リブロース280g・2,650円
↓ステーキガスト・リブロース250g・1,899円

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グラム数を減らし、価格を抑えている。750円の価格差はさすがに大きい。ステーキガストはステーキけんの業態であるサラダ+カレー+ドリンク+デザートのビュッフェスタイルで進出し、けん創業者の井戸実に「リーディングカンパニーがけんの真似をするのは困ったものだ」と言わしめた。

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結局けんはステーキガストとの圧倒的な価格差に敗れ去ったのである。

では、いきなり!ステーキとの比較はどうだろう。非常に面白い結果になった。

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↑ステーキガスト・リブロース250g・1,899円
↓いきなり!ステーキ・リブロース250g・1,725円(250×6.9円)

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なんと、いきなり!ステーキの方が安いのである

他社の業態を真似て、スケールメリットを活かした安売りでライバルを倒してきた横川にとり、自社より安く高品質なステーキを武器に凄まじい勢いで店舗網を拡大するいきなり!ステーキは脅威そのものであったはずだ。 ましてや安売り路線への展開しか道が残されていなかった横川から見れば、一瀬は怪物に思えただろう。

その感情はカンブリア宮殿内でも現れており、一瀬が「うちの肉は原価率が高い」と言うやいなや横川は「肉以外に価値はない」と食い気味に反論している。ここまで読んでこられた方ならお分かりだろう。客がその肉に価値を見出してしまったら、すかいらーくはいきなり!ステーキに勝てない。すなわち横川は一瀬に勝てないのだ。

冒頭に記した「どっかでガシャッと修正しないといけない」という指摘に至っては、なんのことはない、「修正してくれないと俺のプライドを保てない」というだけの話だったのである。

・・・・・・後編は明日、発行予定です。

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Posted by epachinko