怒鳴る男

2020-05-26 12:03趣味・日常

一昨年。入院した時、四人部屋の一人がやたらとうるさい初老の男性だった。会社の社長なのだろうか、電話で部下を叱責しまくり、取引先に電話をかけまくる。病室でだぜ? 看護師から電話を注意されても止めない。

ある日、奥さんと思しき人が見舞いに来て、私ら他の患者に挨拶をした。こんな事を言っては失礼だけど、丸めた背中と幸薄そうな表情が印象的だった。

それからの30分。男性の怒鳴り声は聞くに耐えないものだった。なぜそこまで奥さんを罵倒できるのだろう、なぜ周囲の迷惑を考えないのだろう。奥さんのこれまでの人生を思うと胸が苦しくなった。

「オイ!お前!何か言えよオイ!」

何度目かの恫喝の末、顔を上げた奥さんから放たれた一言に、私は目を見張った。

「貴方はもう、終わりだから」

フフッという小さな笑い声の後、男は怒鳴るどころか口を開くことすら止め、奥さんは無言で帰っていった。

翌日、男はいなかった。退院したのか、別の病室へ移ったのかは分からない。

2020-05-26 12:03趣味・日常

Posted by epachinko